東京高等裁判所 昭和30年(う)1422号 判決 1956年2月14日
控訴人 原審弁護人 藤田馨
被告人 小泉義国
弁護人 藤田馨 外一名
検察官 大沢一郎
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役二年六月に処する。
この裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予する。
押収にかかる偽造株券四十枚(東京高等裁判所昭和三十年押第四九三号の一)、同二枚(同押号の三)、同三十五枚(同押号の五)、同十五枚(同押号の六)、同一枚(同押号の十)、同十一枚(同押号の十六)、同十八枚(同押号の十八)、同二十四枚(同押号の十九)、同十枚(同押号の二十四)、同五枚(同押号の二十五)、同十五枚(同押号の二十六)、同大映マークゴム印(同押号の十二)、同「百株券金五千円」のゴム印(同押号の十三)は、いずれもこれを没収する。
原審及び当審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
藤田弁護人の控訴趣意甲について、
原判決の認定にかかる被告人の作成した株券に、会社の商号が大映映画株式会社と印刷されていること、及び当時大映映画株式会社なる商号の会社が実在しなかつたことは、いずれも所論のとおりであるけれども、しかし、原判決援用の関係証拠に徴するときは、被告人の作成した原判示株券は、一般人をして、当時実在した大映株式会社の株券と誤信せしめるに足りる形式を具有したものであることが認めえられるのであるから、これを作成した所為が有価証券偽造罪を構成することは明らかであるといわなければならない。しかして、所論は、被告人が、右は偽造罪を構成するかどうか疑わしいと弁解しているのに、原判決がこれに対する判断を与えないのは、事実誤認若しくは理由不備の違法がある旨主張するのであるが、しかし被告人が、原審公判において、所論のような弁解をしていることは、記録上これを発見しがたいばかりではなく、仮りに、そのような弁解ないし主張が原審においてあつたとしても、原判決においては、被告人の前示株券作成の所為が、明らかに有価証券偽造罪を構成するものと認定判示しているのであるから、右のような弁解ないし主張に対する判断を与えたものとみるべきであつて、これをもつて、所論のような事実の誤認若しくは理由不備の違法があるものとすることはできない。論旨は理由がない。
(その他の判決理由は省略する。)
(裁判長判事 中西要一 判事 山田要治 判事 石井謹吾)
弁護人藤田馨の控訴趣意
甲 原審判決は事実誤認の違法があるか若くは理由不備の違法がある、即ち一、原判示は被告人の偽造した有価証券は大映映画株式会社名義であつて左様な会社は実在しない虚無のものであり被告人は右のもの故偽造罪としては疑はしいものとの弁解をして居るのに対し之を看過して漫然偽造なりと断定して居る。二、実在しない虚無人名義を冒用することが偽造でない事は明瞭であり而も被告人が之を弁解して居るのに之が判断を示さないのは事実誤認若しくは理由不備の違法がある。
(その他の控訴趣意は省略する。)